2012年 06月 04日
====================================================================== 山域山名 飯豊連峰 飯豊山(2,102m) 本社ノ沢 山行期間 2012年5月31日(木) 山行形態 山スキー 天候 晴れ 参加者 単独 行程 大日杉小屋6:50~ザンゲ坂~長之助清水7:33~地蔵岳9:10-9:25~大又沢出合9:43~本社ノ沢出合9:58~ 左岸取り付き(1270m地点)10:27~尾根稜線12:07~飯豊本山小屋13:45-14:12~本社ノ沢出合14:47~ 大又沢出合15:07~地蔵岳16:45-16:55~長ノ助清水17:50~大日杉小屋18:24 行動時間 11時間34分 移動距離 15.2km(GPS計測) 累積標高差 ±2,409m(GPS計測) ====================================================================== 本社ノ沢(おむろのさわ)は飯豊本山の東斜面を源頭とする沢だ。この沢がいつからスキー滑降の対象となったのかわからないが、そう古いことではないようだ。さらに日帰りで本山往復をトレースされるようになったのは比較的近年のことのようで、西川山岳会など一部の愛好家が滑降対象としている。しかし、ネットで記録を散見するようになると、本社ノ沢を知る人も実際滑った人も増えてくる。かくいう自分もそうなのだが、山スキー2シーズン目の昨年はまだ自分には難しいように思えた。ましてや単独でなど考えられなかった。地蔵岳を経由した本社ノ沢から本山へは、ルート取りに特徴があり、往路は大日杉から地蔵岳へ900m以上登ると大又沢へ約400m下降し、再び飯豊本山へ1000m近く登ることになる。復路はまた400mの登り返しが待っているので、単純累積標高差は2300m以上にもなる。ルート延長こそ15kmほどだが、ルートファインディングが必要なこともあり、篤志家向けのルートといえる。初めてgamouさんの記録を見て以来、そのダイナミックなルート取りと飯豊本山山頂からの滑降という魅力に惹かれ、いつかは自分もと思っていた。山スキー3シーズン目の今年になり、急斜面の処理にある程度慣れてきたこともあり、本社ノ沢も滑降対象として考えられるようになってきた。後は時期と相方だが、休日を全部スキーに当てるわけにも行かず、その他の山行もあり、そうこうしているうちに5月も下旬となってしまった。今年は時期を逸してしまいもう無理だろうと思ったが、どうにも気持ちが残っている。よし思い切って駄目もとでやってみよう。中途退却となっても来シーズンの調査にはなる。5月末日に休日出勤の代休を当て、単独で本社ノ沢に向かうことにした。 静かな大日杉小屋 急勾配のザンゲ坂 御田の雪田 イワウチワが咲いている 三国岳方向 朝から天気予報通りの快晴。大日杉小屋までの道は19日に除雪が完了し開通したばかりだというが、周囲を見ても雪はすっかり消えていた。平日なので大日杉の駐車スペースには5台程度。ブーツとスキーを付けたザックを担ぐとずっしり重い。雪の上をツボで歩くことも考え、足下は万能靴(長靴)とした。計画では行動時間を12時間と想定し、午前5時にスタートする計画を立てていた。しかしスタートは6:50になってしまった。遅くなったのは自分のせいだが、行動時間が長い山行でスタートの遅れは致命的。この時点で山頂までは困難かとの思いもよぎる。20分ほど登るとザンゲ坂。クサリを掴んで登ると登山道は尾根道になり、単独行のご婦人を追い抜く。スキーを使わない急登は久しぶりで、たちまち汗が噴き出る。山は緑も濃くなり、春山というよりは初夏の感じさえするようになっている。スキーを担ぎ長靴で歩いている自分が滑稽にさえ思えてくる。長之助清水でザックを降ろす。清水まではすぐだが足場が悪いので注意したい。標高1000mほどにある小湿地の「御田」は、残雪が雪田のようになっていた。高度を上げると左手には三国岳などが見えてくる。その後も雪が現れては消えで、あわよくば途中からスキーでとの目論見も雪のように消え去った。それにしても羽虫がうるさい。大群が自分にまとわりついてくる。始めは追い払っていたが無駄だと悟ると、あとはもう放っておくしかなかったが、たまに口にまで入るのには参った。 残雪に新緑が輝く 地蔵岳と飯豊本山(左奥) 飯豊本山 夏道はこちらの尾根についている 大又沢へと下降する 大又沢出合 前方にピークが近づき、地蔵岳かと思えば、それはだまし地蔵のピークで、左から巻くとやっと本当の地蔵岳が見えた。標高1500mも近いので残雪も増えてきたが、やはり尾根は所々ヤブが出ている。結局スキーを担いだまま、9:10に地蔵岳到達。長靴でスキーを担いでの2時間20分はまあまあのタイムか。地蔵岳からは正面に本山が見え、主稜線も一望出来る。左手に伸びる尾根を辿れば、切合小屋を経由して本山へと至る。本山の斜面を見ると、本社ノ沢は山頂から駆け下る右俣と左俣が中腹で1本に合わさることがわかる。右俣左俣どちらも中間部にデブリの黒い筋が見える。どちらを滑るかは登りながら考えるとしよう。山頂への登高に使う尾根は雪が切れているようで、斜面側をトラバースするしかないように思える。少々不安になるが、どうするかは登ってみてから決めることにしよう。地蔵岳から本社ノ沢へ下るルートがわからないが、登山道なりに南へ少し移動するとコルから下る沢筋が見え、そこを下降点とする。長靴をザックにしまい込み、今日初めてスキーを履くと滑り始める。急斜面で幅が狭く、縦溝や倒木もありはなはだ滑りにくいが、横滑りを多用しながらなんとか大又沢に下りた。苦労して稼いだ400mの高度も失うのは簡単だ。降り立った大又沢は雪で埋まっていた。 沢が口を開けている 本社ノ沢出合手前 出合から本社ノ沢下流側(沢幅が狭い) 出合から上流側を見ると山頂が見えた 右の枝沢を登る 再びスキーを担いで下流に向かって歩くと、雪渓がすっかり落ちて沢が大きく口を開けている。もし沢に落ちて下流の雪渓の下に呑み込まれれば万事休す。沢水は雪解け水そのままの水温なだけに、落ちただけでも命にかかわる。今日は単独で無理は出来ないので、退却の二文字が頭に浮かぶ。しかし、しばらく眺めていると、右岸から巻けそうなことに気付く。慎重に巻き無事クリアする。その下の口を開けていたところもクリアすると本社ノ沢出合だ。出合付近の雪渓も大きく変形しクラックが入り、崩壊も近いのではと思われる。危険地帯は素速く通過し、本社ノ沢を少し登ってスキーにシールを付ける。やっとシール登高の開始だ。山頂までは1000m近い高度差を登り上げなければならない。雪面はかなり荒れていて歩きづらいが、この時期なので仕方がない。登っていくと沢幅が広くなり明るい感じになってくる。正面には本山が少しずつ大きくなってきた。標高1250mを過ぎると、右手の尾根に登れそうな枝沢が見えてくる。周囲を見ても、雪がつながりシール登高できそうな沢はここしかないようだ。この枝沢へ入りさらに登っていくが、見た目より勾配が急できつい。ジグを切り登るが、縦溝が出来ているところもあり登りづらい。ついにはエッジを外してしまい、10mほど落ちてしまった。スキーを見るとシールが剥がれかかっている。粘着力が弱くなっていたのだが、そのうちにと思いながら手入れを怠っていた。勾配がかなり急になってきたこともあり、スキーを諦めてツボ足に切り替える。GPSを見ると標高1600m地点だった。やれやれとキックステップで斜面を登るが、さらに傾斜を増す斜面の直登を諦め、右隣の斜面へとブッシュを越えて移る。 地蔵岳を振り返る 本山小屋が見えてきた なかなか近づかない あとひと息 やっと本山小屋に到着 山頂と飯豊連峰の主稜線 ダイグラ尾根の宝珠山 西には飯豊連峰最高峰の大日岳(2,128m) それにしてもかなり足にきている。疲労からペースダウンしていたが、もう戻ろうかと気持ちまでダウンしてくる。しかし、せめて尾根には上がりたい。それから考えようと思い頑張る。雪が切れたところで笹ヤブをかき分けさらに登ると、やっと山頂までの尾根が見え、その先に山頂小屋のトイレらしき建物も小さく見える。こうなると欲が出てくる。ここまで来たら戻っても登ってもそう違いはない。山頂目指してゆっくりゆっくり歩いていく。尾根の稜線そのものはブッシュが出ているので、南斜面の雪渓上端をトラバースしていくのだが、雪が柔らかいこともあり不安はあまり感じない。まとわりついていた虫軍団も、標高1800m辺りでいなくなってしまった。それにしても山頂がなかなか近づかない。見えていることは良いようで悪いときもある。辛い登りに耐え13:45山頂小屋到着。飯豊山の山頂はここより3m高いに過ぎないが、西に650mほど離れている。往復する時間も体力も無いので今日はここまでとする。到達した達成感に浸っていると後から声をかけられ、誰もいないと思っていたので驚く。声をかけて来た単独男性と話しをすると、HPを拝見したこともある恒さん(本社ノ沢を滑ったこともある)だった。今日は小屋泊という恒さんに手を振るといよいよ滑降だ。 本社ノ沢右俣から地蔵岳までが一望 斜面左手 斜面右手 下降するにつれ縦溝が出てくる デブリ箇所が近づく デブリで滑るラインがない 小屋直下の本社ノ沢右俣を滑ることにする。斜面に飛び込むと、ちょうど良いミゾレのフラットな斜面で気持ちよくターンが決まる。眼下に本山東斜面を一望しながらの滑降は痛快の一言だ。こんな時は自然と雄叫びを上げてしまう。ここまでの辛い登りはこのためなら納得出来ると思う。しかし楽しい時間は長くは続かない。やがて、斜面に縦溝が現れてくるとターンがしづらくなる。下から見えていたデブリは、近づいてみると結構規模が大きい。そのため滑る幅もないところでは、何度か階段下降をしなければならなかった。それでも本社ノ沢を滑るという醍醐味は十分味わえた。本社ノ沢出合でスキーを脱ぐと、疲れて集中力が低下しているであろう自分に気合いを入れ、再度沢の開口部を慎重に通過する。 400mの登り返し急斜面 登り返し途中で振り返る 地蔵岳山頂 大日杉に到着 地蔵岳から下りてきた沢の登り返しは、雪が悪くスキーでは無理なのでキックステップで登り返す。水も残り少なくなりザラメ雪を補充する。400m登るのにこれほど辛かったこともあまり無い。足を動かしていればいつかは着くと自分を励ます。地蔵岳の山頂はカットして巻きたかったが、雪が切れていて断念し山頂まで登る。地蔵岳山頂には16:45着。スキーと兼用靴をザックにくくり長靴を履く。短時間の休憩の後、飯豊本山に別れを告げると忠実に登山道を辿り下山する。大日杉には18:25着。所要時間11時間35分の山行を終了した。 ※本社ノ沢は山スキー愛好家なら、1度はチャレンジしてみたいルートだろう。ただし、平年における時期は5月中旬あたりまでが適期かと思う。それより遅いと沢が口を開ける可能性が高くなる。大日杉までの除雪が終わらなくとも、少々歩けば良いだけのこと。条件にもよるが、それなりに体力と技術を兼ね備えたパーティーに、是非チャレンジしてもらいたいルートと言える。いずれにしても、エスケープルートなど無いので、計画・装備・体調には万全を期したい。次の機会にはもっと早い時期にやってみたいが、ラッセルが想定される場合は、多人数のパーティーが必須となるだろう。 登下降ライン ルート図 ( 登り:赤 下り:青 )
by torasan-819
| 2012-06-04 06:24
| 山スキー
|
Comments(12)
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utinopetika2 at 2012-06-05 18:56
w(*゚o゚*)w ストイックですね。
地図を広げて楽しませてもらいました。 ・・・・・というか呆れました。 またご一緒させてくださいなんて、中々言えません(笑)。 今度、花を愛でに、軽いタッチの飯豊連峰登山いかがでしょうか。 その際は、是非是非お供させてください。
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lc4adv at 2012-06-05 21:46
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torasan-819 at 2012-06-05 22:00
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torasan-819 at 2012-06-05 22:05
おはようございます。
さっそくおむろの沢の記録を拝見させていただきました。 写真の一枚一枚が全て手に取るようにわかるので、まるで自分も登っているように楽しめました。 核心部である大又沢の大穴はたしかに大きく広がっているものの、それほど危険な感じがしなかったのは意外でした。 実感は違うのかもしれないですが残雪が少なくなり雪壁の高さがあまりなくなったからかもしれないですね。 地蔵岳の標柱なども、ボク達の御秘所沢の時は頭が少し出ている程度だったのにたった4日間でもう全体がわかるまでになっている。この時期の融雪の早さにあらためて驚きます。 1週間も違えば雪の状況が一変してしまうのでやはりおむろの沢は早め早めですね。 いずれにしろご無事でなによりでした。
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torasan-819 at 2012-06-06 18:51
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torasan-819 at 2012-06-06 19:07
gamouさん
gamouさんは本社ノ沢に何度も行ってますからね画像だけで追体験ができるでしょうね。 おっしゃるとおりザンゲ坂や地蔵岳の画像を見比べると、27日と31日の4日間の雪解けは凄い勢いですね。 やはりこの時期は思ったら即実行しないと、簡単に時期を逸してしまうようです。 今シーズンはあちこちの山で終わりギリギリの山行が続きましたので、来シーズンは余裕を持ってやりたいものです。 そのためには休みが足りないかな(笑) これからもgamouさんの素晴らしい記録を期待しています。 そしていつかご一緒させてください。
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leviathan05 at 2012-06-06 22:58
すごいですね~。 (゚д゚|||) 何が凄いかは書かなくてもわかると思いますが・・・
一気読みしてしまいました。 変に身体に力が入ってたりして・・・ リアルに反応してました。 笑) ↓ の写真を見て 、飯豊はでっかいなあ~ と思いました。 この写真の大きさも良いですね。
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torasan-819 at 2012-06-07 12:24
leviathan05さん
長文を読んでいただきありがとうございます。 ワタクシも自分が歩いたことのある山は、人の記録でも思わず手に力が入ってしまいますね(^^ゞ 3日にも飯豊に行きましたので近日中にアップします。
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ranger3yuji at 2012-06-07 22:59
すごいですね。としか言えません。
自分は行ったことがないところだし、スケールの大きさに圧倒されます。そして3日にも行かれたそうで。やはりすごいです。
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torasan-819 at 2012-06-08 19:22
ranger3yujiさん
飯豊は毎年何らかの形で歩いていますが、毎回その懐の深さに感嘆しています。 飯豊はいくら登っても登りつくすということはない山域ですね。 今年はおういんの尾根、オンベ松尾根なども歩いてみたいと思っています。 |
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