2013年 05月 10日
地蔵岳に立つと、正面に視界を塞ぐように大きく飯豊本山が見える。その東面に突き上げる沢が本社ノ沢(おむろのさわ)だ。自分がこの本社ノ沢を初めて滑ったのは、昨年5月31日のことだった。積雪の多い飯豊でも5月末ではさすがに遅すぎたようで、地蔵岳までスキーを担いで登った。今年は4月中に、できれば同行者を連れて滑りたいと考えていた。しかし、なかなかタイミングが合わない。このままでは昨年の二の舞になってしまうと思っていたところ、9日が好天の予報を見てこの日しかないと思った。こんな時のために取っておいた代休を当て、単独で飯豊に向かうことにした。 ================================================================================ 山域山名 飯豊連峰 飯豊山(2,105.1m) 本社ノ沢(おむろのさわ) 山行期間 2013年5月9日(木) 山行形態 山スキー 天候 快晴 参加者 単独 行程 大日杉小屋5:15~スキー登高開始(1,160m)6:33-6:41~地蔵岳(1,538.9m)7:34-7:42~大又沢7:52~ 本社ノ沢出合7:54-8:03~左岸取り付き(1,280m)8:28~尾根稜線(1,770m)9:46~飯豊本山小屋10:31~ 飯豊山頂10:48-11:00~飯豊本山小屋11:11-12:23~本社ノ沢出合12:50-12:59~地蔵岳14:11-14:37~ 大日杉小屋15:43 行動時間 10時間28分 移動距離 16.5km (GPS自動記録) 累積標高差 ±2,440m (GPS自動記録) ================================================================================ 大日杉小屋から残雪がある ザンゲ坂の急登 雪の無い尾根道 尾根道の脇にはイワウチワが咲いていた 前日夜に白川ダム湖上流まで移動し車中泊。午前4時に起床すると朝食を済ませ、大日杉の登山口まで車を走らせる。道路脇に雪は残っているものの、登山口までの道はスムーズに走行できる。支度をしていざ出発と歩き出したところ、1台の車が走ってきた。車を降りた運転者と話すと、彼も今日単独で本社ノ沢を滑りにきたという。平日に単独でこんな所を滑りに来るのは相当の好き者であるが、もちろん自分も人に言えた義理ではない。お先にと歩き出し橋を渡ると、標高610mの大日杉小屋前からすぐ残雪歩きとなる。昨年は雪がなかったのでゴム長で歩いたのだが、今年は始めからブーツで歩くことにした。連休中とおぼしき足跡に加え、昨日かと思われるアイゼンの足跡もあり、それなりに入山者がいたことを伺わせる。ザンゲ坂の雪壁をブーツを蹴り込んで登り、尾根に出るとさすがに雪は付いていない。イワウチワの咲く尾根道を登っていくと、汗が滴り落ちるのでTシャツになり捻り鉢巻きを締める。昨年は後半かなりバテバテになったので、ペースを意識的に落とすようにする。登高量も多いことから、エネルギー補充もこまめにするつもりだ。 標高850mからの残雪状況 標高1160mでスキーに切り替え ダマシ地蔵から飯豊山と地蔵岳が見えてきた 地蔵岳山頂からの飯豊山 大又沢へと下る 大又沢はすっかり雪で埋まっている 本社ノ沢上流より見た出合の状況 登っていくと雪が徐々に繋がってきて、標高1160m辺りでスキーに切り替える。数日前に新雪が降ったようで雪面は白く美しく、何か得したような気持ちになる。朝なのでまだ締まっている雪面は、シールも良く効いて登りやすい。登り始めて2時間20分ほどで地蔵岳山頂に到着したが、ペースを抑えたせいか疲れは感じない。正面には飯豊山が圧倒的な存在感で迫ってくる。山体は朝日を浴び、眩しいほど白く輝いている。大日杉小屋から地蔵岳山頂までに920mの標高を稼いだのだが、本社ノ沢へはせっかくの高度をいったん下げることとなる。その標高差は380mほどもあり、そのことがこのルートの累積標高差を大きくしている。シールを剥がして滑降体制に入ると、左手の急斜面へと滑り込む。朝で日陰ということもありカリカリのバーンだ。転倒すればそのまま下まで落ちそうだが、斜面が平滑で滑りやすいこともあり転倒もなく大又沢に降り立つ。沢はすっかり雪で埋まっていて、下流へと滑ると難なく本社ノ沢出合に到達した。昨年のこの区間は、あちこち沢が大きく口を開けており、越えるのに苦労したのだが今年は何の苦労もない。昨年費やした時間と労力に比べると、あっさりと出合まで来てしまったことに拍子抜けするほどだ。 本社ノ沢を登る 左岸尾根へ登高中からの地蔵岳 本山小屋がかすかに見えてきた しかし、ここからが本番で、山頂までの1000m近い登高が待っている。再びシールを貼ると、正面に飯豊山を見据えながら本社ノ沢を登り始める。なだらかな沢を歩いていくと高く上がってきた太陽で、雪面からの照り返しとの両面焼きで暑い。新雪で覆われていない部分では、結構な数のスキーのトレースが付いているのが分かる。どうもこのGWに本社ノ沢は賑わっていたようだ(後で分かったのだが、本社ノ沢は首都圏の愛好者の知るところとなり、このGWはボーダーも含めて10名以上が本社ノ沢を滑りに来たらしい)。やがて右手の斜面へと方向を変え、左岸尾根に突き上げる支沢に取り付く。始めは直登していたが、斜度が増してくるとジグを切って登るようになる。新雪がずり落ちないか心配したが、今のところは大丈夫なようだ。下を振り返ると、今朝会った男性が登ってくるのが点のように見えた。時間にして40分以上離れているようだ。尾根に近づくとさらに急斜面になり、スキーを乗せるとグサ雪がズリ落ちる。何度か斜面がズリ落ち、少々冷や汗をかく。斜面を横切るように左にトラバースして逃げ、小尾根を回り込んで尾根の下に出た。昨年はそうしたように、もっと下から右上の尾根に上がるべきだろう。尾根に近づくと風に吹かれる。尾根を越えて風が巻くのだろうか、風向がくるくる変わり体があおられるので歩きにくい。風にじっと耐えながら、尾根の南側をトラバースして登っていく。傾斜はさほどではないが、本山小屋が見えてからが長く感じる。 本社ノ沢右俣の大斜面 本山小屋に到着 小屋より山頂を望む 飯豊山頂にて 宝珠山とダイグラ尾根 飯豊の主稜線 未だ未踏の大日岳 10:31本山小屋到着。スタートから5時間16分は上出来か。小屋脇にザックをデポすると、山頂までのピストンに出る。昨年は時間と体力が無くなり断念したのだが、今年はどちらも十分にある。稜線の風は強いが、スキーで山頂へ向かう。久しぶりの山頂からの眺めを堪能し、しばしひとり撮影大会をすると小屋へと戻った。小屋でゆっくり昼食を食べていると今朝の男性が到着し、彼もまた山頂へと向かっていった。せっかくなので彼が戻ってくるまで待って話しをすると、新潟の山岳会の方でワタさんといい、始めて4・5年の山スキーは主に単独でやっているという。自分と同じ匂いがし親近感が湧く。これから昼食であろうワタさんに別れを告げると、いよいよ滑降だ。 滑降へとスタート(ワタさん提供画像) 一ノ王子と大日岳 本社ノ沢左俣の大斜面 雪面はフラットで素晴らしい シュプールがあるのだが画像ではあまり見えないのが残念 昨年は小屋直下から本社ノ沢の右俣を滑り降りたが、今年は左俣を滑ることにした。右手に尾根を移動し、小尾根を越すと左俣の大斜面だ。眼下に広がる大斜面に思わず声が出る。斜面は真っ白い新雪の部分があるが、滑りやすいザラメになりかけの部分へとスキーを走らせる。何たる最高!何たる快感!体は落ちながらも天空に舞う鳥のような気持ちになる。やがて斜面が狭まり、新雪が全面になると重い雪のターンに手こずる。スキーを引っかけ2度の転倒をしながら、右俣との出合まで滑り降りて一息入れる。満足感に浸りながら、滑ってきた斜面を振り返り見上げる。お世辞にもきれいとは言えないシュプールだが、比べるべき他のシュプールも無く自己満足の世界に浸れる。本社ノ沢出合まで緩斜面の沢床にスキーを走らせる。 地蔵岳へ登り返す 地蔵岳からの飯豊山 画像を拡大し補正してやっとシュプールが見える(ワタさんのシュプールと絡み合っている) 滑降ラインをグーグルアースで作成 登ってきたワタさん 出合で登り返しのためシールを貼っていると、早くもワタさんが降りてきた。さて地蔵岳への登り返しだが、往路とは違うルートから登ってみることにする。ワタさんは往路と同じ斜面を登り返すようだ。出合からすぐに急斜面のトラバースになるが、下には大又沢が大きく口を開けていて緊張しながら進む。滑落すれば沢に落ちるリスクを考えると、あまり良い選択ではなかったようだ。トラバースが終わればあとは登るだけだ。昨年はバテバテになり、出合から2時間もかかった地蔵岳だが、今年は1時間12分で登ることができ余力を感じる。山頂から滑ってきた本社ノ沢左俣を眺める。シュプールがなんとか見えるが、視力の弱い自分の目がもどかしい。それにしても人間の足跡の、何と何とちっぽけなことか。ワタさんが登ってきたので、写真のモデルになってもらう。 尾根を下ってゆく 印象的な朽ち木 ザンゲ坂を下る 登山口に到着 さて飯豊山に背にして滑り始める。下るにつれ、狭い尾根、クラック、樹林などをかわしながらの滑降となる。普通なら滑りにくいばかりの状況だろうが、今日はそんな所も楽しいと思える自分がいる。これもまた余力を残した山行だからこそだろう。結局、標高940mまで滑り降りることができた。スキーをザックに付けていると、ワタさんが追いついてきた。2人で前後しながら登山口まで駆け下りる。大日杉小屋に到着しワタさんと握手。今日も素晴らしい山旅ができた。飯豊山よありがとう! 今回は条件が良かったこともあり、各所で長く取った休憩時間を考えると、実質9時間程度で飯豊山頂往復が可能ということになる。こうなるともう少し欲張っても見たくなる。余力をもって楽しむか、目一杯つき進むか、どちらもありだ。なお、文中にも書いたがエネルギー消費が激しいので、意識的にカロリー摂取をこまめに(1.5~2時間おき程度)したが、その効果はあったようだ。 ※ワタさんの記録はここ GPSトラック ( 往路:赤 復路:青 ) ※クリック拡大
by torasan-819
| 2013-05-10 19:10
| 山スキー
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Comments(16)
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ranger3yuji at 2013-05-11 07:55
すごいな、としか言えません。同じ匂いの方との出会いも偶然でではなくひきつけられたものでは。
ペース配分にスタミナ補給、フルマラソンを余裕で走ったときの自分と同じです。 こちらはしばらく山から離れるのでtorasanの記事を楽しみにしております。
0
ありゃ、平日で飯豊日帰りやっちゃったんですか?それにしてもこの行程を難なくこなせる体力がスゴイです。
天気も良くいい斜面ですね私が昨日行った湯殿山なんて、ちっぽけなもんですね(笑)。 私も仕事調整できるくらい頑張って(何を?)、平日にも山行けるようにしたいです。
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lc4adv at 2013-05-11 10:38
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utinopetika2 at 2013-05-11 20:20
昨年と同じ、今回も地図を広げながらシゲシゲと拝見しておりました。
やはり眺めているだけで滝汗です。 雪の状態は今回の方がよさそうですね。 今回は沢の状態も良さそうですが、怖くないのでしょうか? 昨年のような、口を開けた沢をみたら僕なら退却です(笑)。 それにしても、昨年より体力、気力もパワーアップトラさん。 流石です。
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KIYO
at 2013-05-11 20:32
x
ん〜、さすがですねぇ\(^o^)/
このルート、ワタクシたちは日帰りはつらいので、本山小屋でまったり1泊でやりたいです。やっぱり飯豊はスケールがでかくてよいですねぇ。たまらんです♪
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torasan-819 at 2013-05-12 05:19
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torasan-819 at 2013-05-12 05:22
sharizakaさん
平日の記録を出すのはなかなか色々とあるので、必ず言い訳を書いています(;^_^A 今回は「取っておいた代休」ですね(笑) 山は逃げなくてもチャンスは逃げるので、心と体の準備はしておきたいものです。
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torasan-819 at 2013-05-12 05:25
lc4advさん
自分の行ける山の範囲を確保しておくために、ある程度の体力は維持しておかないとと思っています。 ちょっと油断するとすぐ体力低下するお年頃になってしまいましたから。 自分も天気の良い日に蔵王を見て思いますよ。 ああ今日あのあたり歩いている人がいるんだろうなとか。
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torasan-819 at 2013-05-12 05:31
utinopetika2さん
怖いというか不安というかありますよ。 それがなくてイケイケの時は危険だと思っています。 昨年は遅すぎましたが、今年は間に合ったという感じです。 今回のルートを60~70歳くらいの方々がやってらっしゃいます。 自分はまだまだですよ。
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torasan-819 at 2013-05-12 05:36
KIYOさん
好きなんですよねこういう山行が。 記事にも書きましたが、ボーダーの方もこの斜面を滑ってます。 KIYOさんなら体力技術ともにやれると思いますよ。 その節はお付き合いしますので(^_-)-☆
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torasan-819 at 2013-05-12 05:41
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torasan-819 at 2013-05-12 22:18
kaiyaさん
お久しぶりです。 山登りが以前よりやりやすくなったとは何よりです。 障子ヶ岳の記事読ませていただきましたが、共感するところが多いですね。 昨年はできなかった山行を今年はやりましょう!
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leviathan05 at 2013-05-18 14:46
スゲ~~~~ \(◎o◎)/!
昨年の記録と地図と広げて見ていました。 いつもなら今の季節、残雪の二王子岳から飯豊連峰の大パノラマを見るのが好きなんですが、、、 写真から見える、蒼い空・白い山、最高です! やっぱり登りたくなりますね。 (((p(≧▽≦)q))) ウズウズ
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torasan-819 at 2013-05-19 08:05
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