2013年 06月 30日
先週行った遭難者の捜索だが、発見も手がかりすらも無かった。発生の9日以来これまでに、消防団、警察、親族知人友人、我々のような山の仲間繋がりの有志が、考えられる限りのところを探している。しかし、山はあまりに広く深い。しかも、チシマザサ(ネマガリタケ)が密生し、見通しが効かず簡単に方向を見失う。ヤブをかき分けながら歩くことになるので、非常に体力と時間を消耗する。かなりの延べ人数で捜索してはいるのだが、捜索は線であり線をいっぱい山に引いたに過ぎない。見ていない見えていないところは多いのだ。何よりも見つけ出せないという事実が、そのことを物語っている。自分に出来ることはと考えた時に、可能性はあまり無いかもしれないが、硫黄川を下流から通して遡ってみようと思ったのだ。 ================================================================================ 山域山名 安達太良山 硫黄川 山行期間 2013年6月29日(土) 山行形態 沢登り 天候 晴れのち曇り 参加者 2名(L:トラ山・八◯さん) 行程 駐車地点8:11~高森川入渓8:13~硫黄川出合8:18~堰堤(1)8:21~堰堤(2)8:34~堰堤(2)8:52~3m滝9:22~ 赤滝(15m)10:28~高巻き10:48-12:17~赤滝落ち口12:20~休憩12:30-12:50~二俣13:06~5m滝13:10~ 抗口跡13:40~右岸取り付き14:03~休憩14:30-14:40~高森(国道115号)15:20~駐車地点15:40 行動時間 7時間29分 移動距離 13.3km (GPS計測:15秒毎) 累積標高差 ±1,136m (GPS計測:15秒毎) 装備 日帰り沢装備(ロープ30m×1) ================================================================================ 高森川を下る 硫黄川へ入る 最初の堰堤 錆びつき埋もれた車輪 2番目の堰堤 国道115号から高森川に下りる。下流に200mほど歩くと、硫黄川が左から出合う。合流した川は酸川と名を変え、やがて長瀬川に合流し猪苗代湖にそそぐ。ちなみに、猪苗代湖の水質が日本でトップクラスなのは、硫黄川の強酸性水が流れ込むからだという。硫黄川に入ると石が白っぽいが、水の成分によるものだろう。すぐ高さ6mほどの砂防堰堤があり、左から越える。歩いていると、半分埋もれている車輪を発見。おそらく鉱山のトロッコのものだろう。2番目の堰堤も左から越える。 熊の足跡を見つけた 石をひっくり返すのはエサ探しか? 3番目の堰堤 このごろ盛土したかのような斜面 ふと、砂の上に何かの足跡があるのに気づく。よく見ると真新しい熊の足跡だ。餌を探してひっくり返したのだろう、石の下の砂がまだ乾いていないので、まだ時間が経っていないのは明らかだ。笛を吹き、熊にこちらの存在を知らせながら歩くことにする。沢では流れる水音があり、鈴はあまり役に立たない。ほどなく3番目の堰堤が現れる。コンクリートブロックを積んだものだが、かなり崩れて下流に散乱している。この堰堤から上の左岸が、まるで最近盛土をしたばかりのように、草も生えていない裸地の斜面となっている。上部は台地状になっているようで、その昔は硫黄鉱山の精錬所があったのだというから、その影響が現在も続いているのかもしれない。 右岸を落ちる2つの細流 右岸の支沢 沢の泥にあった足跡(標高830m) 大岩で埋まった沢 3m滝 沢は何とも穏やかに、ゆるゆると流れている。やたらゴルフボールが落ちているのが目立つが、左岸の上にあるゴルフ場からのものだろう。右岸から落ちる2つの細い流れを見送ると、また右岸から支流が落ちるが、こちらはやや流量が多い。硫黄川の水は酸性が強くてとても飲めないが、支流の水は飲むことができる。歩いていると比較的新しい足跡が、泥についているのに気づいた。山菜の時期は過ぎ、魚はいないのに、こんな所まで来るとは誰だろうと首をひねる。その後も何箇所か足跡があったが、やがて見なくなった。平坦だった沢だが、標高850m辺りから大岩が増え小滝となって水を落とす。3mの小滝を登り、いくつかの岩滝を越え、立ってきた両岸の間を進んでいく。 穏やかな平瀬 赤滝が見えてきた 水しぶきで迫力がある 登攀は次回ということで ナメ、堆砂した平瀬と過ぎると、大岩が重なり沢を埋め、両岸がかぶさるような崖となり、その先に滝が見えた。あれがおそらく赤滝だ。近づくと階段状に水しぶきをあげ、実際の流量以上に迫力がある。高さは15mというところか。観察すると水流右から登れそうに思えるが、落ち口へのトラバースが難しそうだ。右に逃げるにしても上部がよく見えず分からない。数メートル登ってみるが、今ひとつ踏ん切りが付かず直登を断念した。以前ならおそらく登っただろうと思う。しかし、今日は2人ともそんな気になれなかった。ともに54歳、背負うものが増えたのか、いずれにしても若くはないということだろう。ちなみに福島登高会の先輩は、1983年に直登している。 背より高いチシマザサ 熊の爪痕 笹ヤブの中の刈り払い道 沢を少し戻り、右岸の急斜面から高巻きを始める。笹だけが頼りのモンキークライミング。標高で100mほど登りやれやれとというところで、今度はチシマザサの密ヤブに突入。背より高く、見通しが効かないほど密集したチシマザサを、かき分けかき分け進む。立木に熊の爪痕を見つけてからは、笛を吹き続ける。こんな所では熊鈴は役に立たない。突然左肩に鋭い痛み。蜂だと思う間もなく、同じところに2度目の一刺しを喰らう。逃げようにも笹ヤブでは逃げようもない。手をめちゃくちゃ振り回しているうちに蜂はいなくなった。小1時間ヤブをこいで、やっと作業用に刈り払いしたらしい小道に出る。事前情報とGPSが無ければ、初めての場所でこのヤブのなか道を探すことはできなかっただろう。道なりに進むと急斜面で行き止まるが、そのままヤブに突入して下る。赤滝の100mほど上で硫黄川に降りる。 赤滝の落ち口 2m小滝 二俣 2m小滝 6m滝 3m石滝 赤滝の落ち口を見に行って休憩後、遡行を再開。帽子を発見するが、傷んでいてこの頃のものではないと判断。2m滝を越え10分ほどで二俣になる。やや白濁した右俣が硫黄川で、上流には白糸の滝(45m)がある。透明な左俣はアマ沢(ある資料では天沢川)という。水量は硫黄川の方が多いが、どちらも強酸性だ。我々はアマ沢へと進むと、赤いボロボロの岩に変わる。2m小滝の先の6m滝は、右壁から容易に登る。3m石滝を越えるともう滝は無かった。しばらく両岸が迫り、木々が被り覆われた沢を登る。右岸のあちこちにある赤テープは、これまで捜索に入った人達が付けた目印だ。 坑内水が左から合わせる 崩れた抗口から水が出ている 下山中に見えた鉄山・矢筈森・船明神 水量も少なくなり、標高1170mで開けると二俣が見えた。いや、二俣と思ったが違うようだ。真っ直ぐが本流で、左から合わせるのは沢ではなく、廃坑の坑口から湧き出てくる坑内水だった。水量は坑内水の方がずっと多く、4:1ほどだろう。時間も無くなったので、本日はここまでにすることにした。しばらく沢を戻り、右岸を登るとヤブをこぐ。今度は八◯さんが蜂に刺されながら、先日捜索した区域の道に出た。ひと息つくと、高森集落へと続く山道を駆け下った。 遭難者の影も形もなく、捜索活動としては結果を出すことは出来なかった。ただ念のため、一度は確認しておきたかったので、その点では遡行したかいがあったといえるだろう。それにしても遭難者はどこに行ったのだろうか… GPSトラック (往路:赤 復路:青 ) ※クリック拡大
by torasan-819
| 2013-06-30 09:17
| 沢登り
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Comments(18)
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ナマステ
at 2013-07-02 02:51
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生き延びるのに、沢に降るは想定はして(不審な足跡)も有った事から
赤滝までの区間は、何度も捜索されたようですが、下流は捜索が入ってないので、一抹の期待は有りました、 遺族からも二重遭難懸念からもう充分ですと感謝の声です 有難う御座いました、
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torasan-819 at 2013-07-02 07:44
ナマステさん
見つけられなかったのは残念です。 しかし、やれるだけのことはやったのではないでしょうか。 特にナマステさんは10数日間捜索してますし、その他の皆さんも同様です。 本当にお疲れ様でした。
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忍
at 2013-07-02 08:26
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お疲れ様です。広い山で人一人を捜すと言うことが如何に大変なのか実感出来るブログでした。
こちらでも、札幌市内のほんの裏山に、たった一時間半程山菜採りに入った家族のお母さんだけ帰らなくて一週間捜索が続きましたが、居なくなった所からわずか1キロ位の沢で見つかったようです。(あまりにも不思議すぎて毎日のようにニュースでやってました)捜索って難しいんですね。その方も早く見つかることを祈っています。
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maro4070 at 2013-07-02 08:40
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torasan-819 at 2013-07-02 18:27
忍さん
ひゃ~ご無沙汰ですね。 こちらにコメントしてもらうのは、もしかしてお初でしょうか? 見通しの効く原っぱならどうかしりませんが、今回のような場所では倒れている人のすぐ脇を歩いても気付かない可能性があります。 木の陰や岩陰、窪みや草ヤブなど、遭難者を見えなくする要素はいくらでもあります。 しかもヤブは漕いだものしか大変さは分かりません。 この日はヤブこぎ1時間で250mしか進みませんでした。 おそらく延べ500人以上が捜索したと思いますが、残念ながら見つかりませんでした。 捜索はいったん打ちきりにせざるを得ません。 今後は偶然見つかることを祈るしかありません。
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torasan-819 at 2013-07-02 18:30
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utinopetika2 at 2013-07-02 21:13
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pon
at 2013-07-02 21:29
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torasan-819 at 2013-07-02 22:11
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torasan-819 at 2013-07-02 22:18
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ranger3yuji at 2013-07-02 22:19
たいへんお疲れ様でした。
気にしていた沢沿い、これでクリアですね。
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torasan-819 at 2013-07-03 07:20
捜索ご苦労様でした。
皆さんのブログで経過をみておりました。 見つからないまま捜索終了となって心残りもあるでしょう! みなさんの捜索活動を知り、山の仲間って凄いって感動しました。 尚且つ、自分は山に入るとき第一に安全に心がけなければいけないと感じました。
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torasan-819 at 2013-07-04 19:58
NONさん
明日は我が身という気持ちもあります。 山を少しでも知っている者が捜索しなくて誰がやるという自負もあります。 いずれにしても、なにか他人ごとではない気がして捜索に参加せずにはいられなかったのです。 一番無念で心残りなのはご家族でしょう。 その思いを胸に捜索しましたが現時点では見つからずです。 でも我々の気持ちは届いていると思いたいです。
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leviathan05 at 2013-07-05 00:15
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torasan-819 at 2013-07-05 07:01
leviathan05さん
そうですね、自分はともかく周囲にそんな思いはさせたくありませんね。 単独行動の場合は、ちょっとしたアクシデントでも重大な結果となる可能性が高くなります。 とはいえ単独での山行は自由なのが魅力でもあります。 事故を100%防ぐことはできませんが、低下させることはできるので注意していきたいものです。
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lc4adv at 2013-07-05 21:09
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torasan-819 at 2013-07-05 21:26
lc4advさん
どこへ…現時点では誰も分かりません。 吾妻や安達太良の山中では行方不明となったままの方が結構いるようです。 樹林やヤブが深いだけに、岩山などよりも見つけにくいということがあると思います。 えっこんな所に…というような場所にいるような気がします。 |
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