2013年 08月 06日
飯森山(日中飯森山ともいう)は地図を見ると、ちょうど吾妻連峰と飯豊連峰の中間に位置し、山形と福島の県境尾根となっている。「いいもりやま」と聞くと、白虎隊ゆかりの会津若松の飯盛山を思い浮かべる人も多いだろうが、森と盛の違いである。飯森山に端を発する大桧沢は栂峰からの思案沢を合わせ、日中ダム湖へと流れ込む。この大桧沢を登るルートは、飯森山の登山ルートのひとつとされている。登山ルートで沢コースというのは他の山でもあるのだが、ここは沢コースというレベルを超えて本格的な沢登りといえる。普通の山が山開きをするように、飯森山は毎年7月下旬に「沢開き」が行われる。その沢開きは一般参加者を募集して行われ、自分も以前参加しようと考えたが都合が合わずそのままになっていた。今年は福島登高会の沢合宿がこの大桧沢で行われることになり、やっと遡行する機会を得ることができた。会としては1984年と2012年に遡行実績があり、今回の合宿8人パーティーにも昨年の経験者が1人いるが、沢登りがかなり久しぶりの人や、始めたばかりというメンバーもいる。毎年の沢開きでは、地元の「つがざくら山岳会」等のサポートがあるとはいえ、沢登りがまったくの素人も遡行しているようであるし、要所にはロープやクサリもあるという。そんな情報からさして難しくはないだろうと安易に考えていたのだが、ちょっと甘かったようだ。やはり山(沢)は登ってみなければわからない。なお、この周辺では10日ほど前に被害が出るほどの大雨となり、一時避難したところもあるという。沢の荒れ具合も懸念されたが、合宿は決行することとなり現地に向かうことにした。 ================================================================================ 山域山名 飯森山系 押切川流域 大桧沢・飯森沢 飯森山(1,595.4m) 山行期間 2013年8月3日(土)・4日(日) 山行形態 沢登り 天候 3日曇り時々雨 4日曇り 参加者 8名(L:和○さん・大○さん・坂○さん・鈴○さん・佐○さん・河○さん・○井さん・トラ山) 行程 3日 大峠トンネル登山口6:43~滑滝8:00~ウダ滝8:23~ミカワ滝8:37~アダチ二段滝9:01~糸滝9:40~ 四条四段滝10:18~雪渓12:09~黒滝12:39~熊滝13:38~哺乳ツクシ15:38~二俣16:48~テン場 4日 テン場7:55~マヨネーズ沢出合9:15~稜線10:03~飯森山頂10:10~下降点10:30~飯森沢出合13:24~ 大桧沢出合16:38~大峠トンネル登山口16:41 行動時間 3日 10時間5分 4日 8時間46分 移動距離 3日 6.3km 4日 5.5km (GPS計測:30秒毎) 累積標高差 3日 +1,092m -408m 4日 +379m -1,063m (GPS記録修正) 装備 泊まり沢装備・ロープ50m×2 ================================================================================ 8月3日(土) 大峠トンネル福島口 トンネル入口すぐ脇が登山口 しばらくは大桧沢左岸の道を歩く 右岸に道が続く 赤矢印が要所にある 3日早朝自宅を出発し、国道121号大峠トンネル南口に接続する飯森沢橋手前の駐車帯に到着。前日入りしていた他の7人と合流してスタートする。トンネルとそのすぐ脇にある建物の間に、「日中飯森山登山口」の表示板がある。飯森沢と大桧沢の合流点を左に見て下りていくと、大桧沢の左岸に道が続いている。やがて踏み跡が無くなり右岸に道が移るが、その後も沢に下りたり道に戻ったりで、今ひとつよくわからない。沢の岩に所々赤矢印があるので、おそらくこれでいいのだろう。沢をずっと歩いても支障はないのだし。 本流と支沢のナメのどちらが滑滝? 滑滝の指導標 支沢のウダ滝 大岩を縫って歩く 記録によるとそろそろ滑滝が出てくるはずだが、ナメはあってもそれらしき滝に行き着かない。と思っていたところ、右岸の道に「滑滝」との指導標があった。このナメを滑(ナメ)滝と呼ぶには無理があるが、ちょうどナメのところに左岸から支流が滝で落ちており、このことが関係しているのかとも思うが定かではない。滑滝の先へと進むとやがて道は無くなり、それ以降は沢歩きとなる。梅雨明けの青空を期待していたのだが(実際に東北地方は3日に梅雨明けした)、曇り空で小雨も降る天気で気温も上がらない。沢の水量は通常より多い感じだが、このところ雨が続いていたせいだろう。先週行われる予定だった沢開きは、雨のため中止となったという。そうすると我々が今年初の遡行者なのかもしれない。ほどなく左岸から支沢が滝で落ちている所にきたが、どうもこれがウダ滝のようだ。本流でなく支沢の滝に名が付いているのだ。 ミカワ滝 アダチ二段滝 ○井さんは沢登り2回目 糸滝手前のゴーロ 右岸から糸滝が落ちる 続いて本流にあるミカワ滝に来たが、見ると左にトラロープが下がっている。安易に頼るのはいかがなものかとも思ったが、結局利用させてもらい巻いた。このトラロープは2本あり、左の方が楽に登れる。次のアダチ二段滝は、手前の2m滝の奥に二段目が見える。手前の滝は普通なら登れそうだが、今日は流量が多く取り付けそうにない。素直に左から巻くと上の滝まで一緒に巻くことになる。やがて前方に糸滝が見えてきた。右岸高くから水を空中に放り投げている。昨年河○さんが遡行したときは水量はずっと少なく、こんなに水が飛んでいなかったとのこと。糸滝を眺めながら休憩。その後も沢には大岩がゴロゴロ転がり、ひとつひとつ乗り越えながら登ることとなる。こんなとき腕力と体格で女子は不利だが、パーティーでカバーして遡行していく。 四条四段滝(下二段) 四条四段滝(上二段) やはり冷たい 四条四段滝は下二段と上二段に分かれる。下二段滝の一段目は、水量が少なければ直登可能かと思われるが今日は無理目なので、トラロープのある左から巻く。沢開きの時は人数も多く、いちいちロープをセットしている時間は取れないだろうから、固定ロープが必要になるのだろう。もちろん我々も利用させてもらう。ここの巻き途中のトラバースが滑りやすく、安全を図りお助けロープを使う。こうも雨が続いてなければ、そう心配はないと思うが念のためである。次の上二段滝はどちらからも巻けそうだが、左岸にトラロープが下がっているのが少々興ざめである。左岸から登るが、トラロープは無視して登る。上部で後続にシュリンゲを出す。さらに遡行を続けていると、ちょっとした釜をへつろうとした自分が釜へドボン。いやはや冷たいが、やせ我慢してゆっくり被写体になる。 冷気を放つ雪渓 静かに足早に抜ける 黒滝は左から巻く 5m滝は左壁を登る やがて雪渓が見えてきた。沢はここで右へほぼ直角に曲がるのだが、残雪はその地形のせいで、ここに集中して落ちてきて溜まるのだろう。標高1200mに満たない地点で、8月にこの雪渓である。会津の積雪量と山の深さを感じずにはいられない。冷気で辺りにモヤのかかる雪渓の下を潜る。雪渓は下からも融けて薄くスノーブリッジとなり、かろうじてバランスを取っているようだ。いつ崩壊してもおかしくはないだろう。それは今日かもしれないし明日かもしれない。雪渓くぐりの長さは50mほどだったろうか、全員無事潜り終えてホッとする。やがて黒滝が現れる。正面からは直瀑に見え、直登は困難のように見えるが実は登れるようだ。しかも、沢開きでの画像を見ると、フリーで取り付いて登っている。しかし、今日の条件で直登はかなり厳しそうだ。ちょっと心残りだが、直登は次回にして左壁から巻く。天気は相変わらず時折小雨が降り、カメラのレンズも濡れっぱなしでは画像はピンぼけだろう。夏だというのにシャワークライムもする気になれない。 熊滝では想定外の時間がかかった 河○さんがへつる ○井さんはこの後落ちたので引き上げた 哺乳ツクシが見えてきた 哺乳ツクシは左岸のクサリで巻く 静かな流れとなる 予定より遅れ気味で熊滝に着いた。ここは直登の場合、滝下まで寄って1人がショルダーなどでもう1人の足がかりとなり登る。昨年の河○さんもそうしたという。しかし、今日は水量が多いので釜も深く水も冷たい。胸まで水に浸かるのがためらわれ、そのことがトラロープの下がる右岸の巻きを選択させた。しかし、この巻きが悪かった。濡れたトラロープと急斜面は腕力まかせの登りとなり、3人上がったところで後続にロープを出すしかなくなった。しかも、濡れた草付きのトラバースはスリップの危険性が高く、ロープ工作と8人が通過する所用時間を考えると無理と判断するしかなかった。結局懸垂下降で沢に降り、河○さんが空身で右からのへつりをトライしたところ成功し自分も続く。ザックをロープで引き上げると、後続にへつってもらうが2人成功し4人が落ちた。落ちた人は強引にロープで引き上げたが、こんな力仕事は自分の得意とするところだ。結局この熊滝の突破に2時間近くを要してしまった。最初からへつれば1時間とかからないだろうが、それは結果論でありこれが沢登りなのだ。条件の良いときに来れば、熊滝の印象も全然違うものになるだろう。とにかく8人が無事越えたことに安堵する。大幅に予定より遅れているが、なんとか17時までには着くだろうと遡行を続ける。ゴルジュの先の6m滝は哺乳ツクシ(意味不明)といい、左岸にクサリがあり小さく巻ける。上に抜けると渓相は穏やかになり、しばらく遡行すると小川のような落ち着きとなる。 思案沢との二俣 テン場に到着 やっと起こした焚き火 やがて現れた二俣は、大桧沢と思案沢の合流点だ。右俣の思案沢は栂峰へと続き、左俣は飯森山へと続く。二俣の中央の踏み跡をちょっと登ると、本日の野営地に16:50到着。予定より2時間近く遅れたが、何とか明るいうちに到着だ。休む暇もなくタープの設営に焚き火の準備と忙しい。辺りに枯れ木も少なく濡れた生木ばかりの薪では、小さいながら焚き火といえるほどにするのに1時間ほどかかってしまった。いつしか暗闇となり、小さな焚き火を囲み酒を酌み交わす。息が白くなるほどの涼しさのせいか、虫がいないので快適だ。見上げるといつの間にか満天の星だ。明日の晴天を期待したい。自分は担ぎ上げた3リットルの各種アルコールを飲み干し、10時過ぎに寝た…らしい。 8月4日(日) タープ1枚で快適に寝ることができた テン場の全景 左俣(大桧沢)の遡行開始 風呂屋横町の始まりの1番風呂 2番風呂 3m滝 ぐっすり寝て目が覚めた。他のメンバーは既に起きていろいろやっている。夜に雨が降ったようだが、タープからはみ出ないで寝ていたので濡れなかった。したたかに酔っぱらって寝た割には上出来だ。今回はシュラフカバーしか持ってこなかったが、フリースを1枚着込んで寝たこともあり寒くはなかった。アルファ米のみそ汁かけご飯で朝食を済ますと出発だ。二俣に降りて左俣を歩き始める。沢幅は狭く緩やかなのだが、なぜか段差程度の小さな滝にいちいち釜が付いていて、それがずっと続いている。地元ではここを風呂屋横町と、面白い名前で呼んでいる。たしかに風呂にもなぞらえる、小さな釜が続いている。3m程度の滝も出てくるが、いずれも楽しんで登れる。 3m滝 左からマヨネーズ沢が合わせる 尾根に出た 飯森山神社 栂峰はガスの中 飯森山頂 歩き始めて1時間を過ぎて風呂(釜)も20個ほどになり、少々あきてきた頃、左からT字にマヨネーズ沢が合わせる。これも変な名前だが、なぜそう呼ぶのかは不明だ。沢はさらに細くなり水流もやがて消えるが、沢形は続いている。左から沢形が合わせるが、真っ直ぐ本流とおぼしき方を詰めていく。やがて沢形も消えるが、そのまま直上すると尾根に出た。尾根は左方向に(右はヤブで道がない)刈り払いしてあり、50mほど登ると木と石の社がある。そこから少し歩いて山頂に至り休憩を取る。空は明るく所々青空が見えるが、ガスが流れていて遠望はおろか、近くの栂峰の山頂も拝めない。 下降地点 ○井さんは初懸垂下降 10m滝 9m滝で2度目の懸垂下降 3度目の懸垂下降 2段20m滝 帰路は尾根道を使わずに、飯森沢を下降する計画だ。地形図によれば、尾根からはいくつもの沢が落ちて飯森沢に合わせている。和○さんは山頂から南に少し下ったところから、斜面のヤブに突入した。急斜面をブッシュ頼りに降りていく。滑るたびに女子がにぎやかだ。すぐ沢形が現れるのでそのまま下降していく。ヤブこぎの時は邪魔なササも、下降の時は頼もしい手がかりとなる。40分ほど下ると先頭の足が止まった。滝が現れたのだ。懸垂下降をすることにして50mロープをセットする。ちなみに昨年、河○さんが下降ルートとした沢は滝もほとんど無く楽に下降できたという。ある意味今日のルートは「当たった」のかもしれない。1人ずつ懸垂下降していくが、○井さんはなんと懸垂下降が生まれて初めてで、これがぶっつけ本番となってしまった。しかし、落ち着いたもので一通りレクチャーを受けると、危なげなく下降していった。降りて見上げれば10mほどの滝だった。続く2段5m滝と次の5m滝を、ブッシュ頼りにクライムダウンする。7m滝も枝にすがって降りると、すぐ次の9m滝は2度目の懸垂下降となる。さらにその下の滝も懸垂下降となったが、この滝は2段20mほどあり、50mロープを使い切るほどの高さだった。 ひたすら歩く 最後まで気を抜けない 大桧沢との出合 3度の懸垂下降をして小滝をクライムダウンすると、やっと飯森沢に出合った。8人が3回の懸垂下降をしたので、下降を始めてから既に3時間近く経過していた。今回下降した支沢には捨てシュリンゲが見当たらなかったことからすると、我々が初めて下降したのではないだろうか。後はひたすら沢を歩くだけ。みんな疲れてきたようだが、歩かなければ下山できない。前方に赤い飯森沢橋が見えてくると大桧沢との出合だ。道に上がり大峠トンネル登山口に到着。思わず万歳してしまう。今日も長い行動時間だった。初日の天候もあり、大桧沢にしては結構しんどい沢登りになったのは、福島登高会らしいといえばらしいかな。 大桧沢は一般登山ルートとして考えると、かなり難しい部類に入る。沢登り経験のない一般登山者だけで入るのはお勧めできない。経験者の案内が必要だろう。沢登りパーティーで平水時であれば、2級の沢のイメージで臨めばいいだろう。しかし、今回の我々のように大人数のパーティーで、時間の遅れが積み重なるとやっかいなので気を付けたい。増水すると熊滝手前から哺乳ツクシまでは逃げ場が少ないので、十分注意したい。他の記録にもあるように、大桧沢の遡行時間はトラブルがない限り7時間が標準タイムかと思われる。今回の我々のように、平均年齢57歳(女性は除く)であるとか水量が多いなどの場合には、所要時間の増加を見込んでおけばいいだろう。下山ルートは尾根道もあるが、出発点に戻ることも考えると沢の下降が便利だ。しかし、沢の下降には危険が伴うので、沢登りパーティー以外は用いてはならない。今回の我々の下降ルートは懸垂下降となったが、別な沢を下降した昨年の遡行者はその必要が無かったので、そちらを下降するほうがいいだろう。なお、体力に自身があれば、日の長い夏に日帰りも可能と思われる。 GPSトラック (3日:赤 4日:青 ) ※クリック拡大 =遡行図後日アップ予定=
by torasan-819
| 2013-08-06 21:56
| 沢登り
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Comments(8)
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utinopetika2 at 2013-08-10 22:30
今日のような猛暑日ですと、シャワークライムなのでしょう。
水量もまずまずのようで、充実した日になったようですね。
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torasan-819 at 2013-08-11 12:22
utinopetika2さん
さすがに合宿の3日は泳ぐ状況ではありませんでした。 1週間後の今週末なら最高だったかも知れませんね。 でも雪渓くぐりは怖くて出来なかったでしょう。 昨日10日も沢登りでしたが寒いくらいでしたよ。
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madokau
at 2013-08-11 19:40
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torasan-819 at 2013-08-12 07:19
madokauさん
お疲れ様でした。 合宿ではいろんなことがあり(ありすぎて?)、沢登りの様々なことを凝縮して経験出来たのは良かったのではないでしょうか。 かなり経験値がアップしたと思いますよ。 懸垂下降も落ち着いていたし、大岩もヒョイヒョイ登っていたし、ヤブもこげるしで、沢登りに向いているよねきっと。 次回の沢登りも楽しみましょう!
なんと!
ちょうど土曜日の下山後、温泉でfwixさんと「9月になったら1泊で行こう」と話していたんですよ!(ただし、下山は夏道で。) 昔、登山道だったらしいので「黒滝が上手く巻ければ大丈夫だよね」とも話してました。 レアな情報ありがとうございます!! 7月七夕の登山教室後、3人集まって3回ほど近場で自主トレしています。○井さんに負けないようにしなくては!!
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torasan-819 at 2013-08-13 09:22
Mt.Raccoさん
そうだったんですか!是非トライしてください。 黒滝は直登でなければ、左の小ルンゼからの巻きは難しくありません。 記事にもあるように、熊滝が水量によってはちょっとやっかいかと思います。 下降路は我々と別な沢を選べば懸垂下降もなく、登山口にも戻れるので楽ですが検討してみてください。 ご無沙汰なので、どこかで沢をご一緒したいですね。
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torasan-819 at 2013-08-13 20:51
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