2014年 10月 17日
ヌルミ沢は朝日連峰祝瓶山の東面を源頭とする沢である。長井側から祝瓶山に登ると、登山道の付いている急峻なヌルミ尾根の右手に見える。東面の岩は雪崩により削られ磨かれ、上に行くほど傾斜が立ってくる。そのためヌルミ沢を遡行するとなると、必然的に登攀的な要素が強くなる。今回はそのヌルミ沢を遡行する計画だ。クライミング指向の強い○樹さんの提案である。自分も2年前にコカクナラ沢の遡行記録に、機会があれば登ってみたいものだとは記していた。しかし、ヌルミ沢相手ではどうにも自分は役不足に思えたので、○樹さんがリーダーならということで話に乗ることにした。沢登り2年目の○木君もパーティーに加えたが、2人でフォローすれば大丈夫だろう。 山域山名 朝日連峰祝瓶山・最上川水系野川支流ヌルミ沢 山行期間 2014年10月12日(日) 山行形態 沢登り 天候 快晴 参加者 3名(L:○樹さん・○木君・トラ山) 行程 白石4:30=登山口7:07~桑住平分岐7:44~入渓7:50~雪渓9:30~屈曲点10:50~大滝11:15~ルンゼ登攀12:50-15:45~ 山頂15:46-16:15-~桑住平分岐17:32~登山口18:04 行動時間 10時間57分 移動距離 8.3 km (GPS計測) 装備 日帰り沢装備(ロープ30m×1・50m×1) 木地山ダムからの祝瓶山 水量は少ない 雪渓が見えてきた 自宅から2時間半弱で登山口に到着。駐車場には既に5~6台の車があり、登山者が何人か準備中。今朝は放射冷却で気温が下がり寒いが、日中は快晴なので気温も上がるだろう。支度をして歩きだすと桑住平分岐までは40分弱。大朝日岳へと繋がる登山道を分岐で左に折れる。クワスミ沢とカクナラ沢を渡り進むとヌルミ沢に出合う。ヌルミ沢は長さが約1.7kmと短く、集水面積が限られるので水量も多くない小ぶりな沢である。轟々と水を落とす沢の多い朝日連峰の中では、何か拍子抜けするほどでもある。祝瓶山の東面を観察していると、ヌルミ沢の中間部に雪渓らしきものを見つけた。おそらく雪渓に間違いないだろう。雪渓の処理が必要になるかもしれないと覚悟する。遡行を開始するとしばらく穏やかなゴーロが続く。東面が徐々に近づき雪渓がハッキリ見えてきた。雪渓の最下部はブリッジになっているようで、その上にも崩れた雪渓があるのが見える。いやな感じがしたが、とにかく行ってみなければ分からない。 最初の4m滝はロープを出した 3mCS滝 かなり古いRCCボルトとシュリンゲ 開けていた沢の両岸が狭まってくると4m滝が現れた。右壁に○樹さんが取り付くが、結構難しいとのこと。彼がそういうのであれば、残りの2人に登れるはずもない。仕切直して空身になり、ロープを引いて取り付きクリアー。ザックを引き上げ、自分と○木君はロープ確保で登る。初っぱなの滝から時間がかかってしまった。その上は小滝が多段に続くが、容易そうに見えても意外にすんなり登れない滝もある。3mのCS(チョックストーン)滝はちょっと手強い。釜はそこそこ深く、両岸は立っているので巻くのも困難。自分はへつってハーケン2枚で滝身に近づき、ハンマーを投げるとうまい具合に引っ掛かったので体を持ち上げた。登った岩の上には、かなり古い折れ曲がったRCCボルトとシュリンゲ。坂野さんの2005年の記録にもあるボルトだ。どれほど前のものか知るすべもないが、その当時遡行した先人の奮闘の跡だ。 雪渓ドームが見えてきた 6m滝 ブリッジというよりドームのようだ アイスボラードの支点で懸垂下降 崩壊した雪渓を越えていく 前方にハッキリと雪渓が見えてきた。よく雪渓ブリッジと言うが、融けて薄く屋根のようになった形状は、ブリッジと言うよりドームのようにも見える。雪渓の手前で沢は細く溝状となり、右岸から水が落ちる6m滝となる。この手前にも古びたボルトとシュリンゲがあったが、我々はへつって滝に近づく。この6m滝は○樹さんが突破し、後続にはお助けを出してもらう。パーティーに1人こんな「登れる人」がいると本当に助かる。続く3m滝を越えると雪渓ドームが目の前になった。幅は15m、奥行きは20mほどだが天井は本当に薄い。中央部は厚さが数十センチ程度のようで、紙のようにペラペラに見える。雪渓ドームの下を一気に抜けようかと状態を観察していたところ、雪渓の崩壊音のような鈍い音が聞こえた。見たところ雪渓ドームに変化はないが、その時点で我々に下をくぐるという気持ちはなくなった。雪渓ドームを左岸から巻き、沢へ懸垂下降しようとしたが適当な支点が見つからない。結局、雪渓の端にアイスボラードを作り支点とした。記録では読んだことがあるが、自分がやるのは初めてのことだ。さらに上流も沢を崩壊した雪渓のブロックが埋めている。隙間に落ちないよう気を付けながら崩壊区間を抜け、5m斜滝を越えたところでひと息つく。祝瓶山東面の下部スラブが見上げるほどに近くなってきた。 花崗岩のフリクションが心地良い 沢は深く切れ込んでいる 再び雪渓が現れる 屈曲点(沢は左へ)から見上げるスラブ 5mCS滝を越え4m斜滝と、花崗岩のフリクションで軽快に登る。沢には崩壊した岩が詰まっていて、水流も滝も覆い隠している区間が続く。6m滝を○樹さんのお助けヒモで登ると小さい雪渓が残っていた。いよいよ下部スラブが近づいてきた。○樹さんは登ってみたいなどと呟いているが、こちらにはそんな余裕はない。登るとすれば、それはもはや沢登りではなくクライミングの世界だろう。青空に紅葉が映え美しい。しばしその景色を各自のカメラに納める。下部スラブに突き当たった940mが屈曲点で、ヌルミ沢は左に曲がる。 日蔭となった沢を登る 大滝と右壁スラブ 右壁を登る 岩壁の基部を目指す 岩壁基部を左へトラバース 方角が変わり日陰となった沢の中を、大岩を乗り越えて登っていくと、1010mで大滝が現れる。大滝と言っても水流は細いのだが、坂野さんの記録によると25mほどの滝が2段になっているという。てっきりこのまま詰めるのだろうと思っていたところ、今回のリーダー○樹さんは黒く濡れている右壁を登ってみたいという。それでは正面スラブに向かっていくようなものではないかと思ったが、とにかく付いていくしかないと腹を決める。○樹さんがロープを引いて登ったが、自分ならとても登れそうもない。再び陽が当たるようになり、さらに登り岩壁下部に近づくと左へトラバースする。このまま登山道に出られるかと思ったが、観察するとそうはすんなりいかないようで、結局ルンゼを直上することになった。時間はかかるが大丈夫だろうとの判断。 セカンドで登る○木君 2ピッチ目を見下ろす 3ピッチ目 終盤の詰め 祝瓶山の影は三角形 山頂のすぐ下で登山道に出た スラブ壁に取り付き、大胆にフリーで登っていく○樹さんを見ていると、つくづく自分にああはできないなと思う。クライミングはセンスだと聞いたような読んだような気がするが、まさしくそうなのだと思わざるを得ない。50mロープを目一杯延ばしてピッチを切る。次は自分が50m延ばし、最後はまた○樹さんで計3ピッチ延ばした。残りは傾斜が少し緩み、草付きとなったのでフリーで登る。あとひと登りで山頂かと思ったら登山道に出た。そこから1分で山頂である。結局ほぼ山頂まで詰めてしまったことになる。今日ヌルミ沢の遡行を始めたときに、ここまで登ってしまうとは誰が想像できただろうか。いや、○樹さんは密かに考えていたのかもしれない。 日が傾いてきた山頂 朝日連峰主稜線と大朝日岳 下山を急ぐ 時間も遅いので誰もいない山頂は我々が独占である。快晴無風と絶好の条件で、360度のパノラマを楽しむ。充実感に浸りながら遅い昼食を食べ、30分もゆっくりしてしまった。下山はヌルミ尾根の登山道を下る。暗くなってきたので午後5時20分頃にヘッデンを点ける。桑住平分岐まで下ったところで熊と遭遇し、その後は最後まで笛を吹きまくりながらの歩きとなった。やれやれである。終わってみればヌルミ沢は、想像以上の雪渓があったこともあり、短い中にも刺激的な魅力の詰まった沢であった。登攀性が強い分、自分としては沢登りの範ちゅうからはやや外れるのだが、岩の好きな人には魅力的な沢(岩?)だろう。1日で完結する沢でもあるし、ヌルミ沢はもっと登られてもいい沢なのかもしれない。 今回の登攀ルート (作成:グーグルアース) GPSトラック ( 登り:赤 下り:青 )
by torasan-819
| 2014-10-17 07:49
| 沢登り
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Comments(18)
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tabi-syashin at 2014-10-17 13:32
いやいやいやいや・・・手に汗をかきました(笑)
読んでるうちに虎毛ダイレクトクーロアールのイメージが浮かび 細いルンゼをヒイコラ登ってる自分が居ました(笑) ルンゼ登りからスラブ登りになったところで前ヶ岳南壁に移行し さらに御神楽の草付き泥壁スラブ登りを思い出しながら・・・ 完璧に脳内トレースしておりました(笑) 痛快でした! ○樹さん快心の一本でしたね。おめでとうございます!
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キコリのK
at 2014-10-17 18:25
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○樹です。tabi-syashinさんありがとうございます。メンバーと天候に恵まれて良い一本を堪能できました。この場をお借りしてパーティを組んでくれた二人に感謝です。ありがとうございました。
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utinopetika2 at 2014-10-17 21:34
ヽ(ill゚д゚)ノ アンビリバーボ
祝瓶山は、2年前の夏に一般ルートで登り、絶壁のような山肌をみて驚いたものでした。 雪渓ドームや綺麗な岩肌を見てみたい気もしますが、相当な覚悟と技術と体力が必要なのでしょう。 一般人にはお目にかかれない光景が、とても素晴らしいですね。 皆さん凄いっす。
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torasan-819 at 2014-10-17 21:53
tabi-syashinさん
読んでいてイメージの世界で追体験…自分もよくあります(^^ゞ この時もまさに細いルンゼをヒイコラ登ってたのです。 tabi-syashinさんは経験豊富でしょうから、イメージもよりリアルなんでしょうね。
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torasan-819 at 2014-10-17 21:56
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tabi-syashin at 2014-10-20 15:08
どなたも心理面での質問をしてないので・・・僕が質問します
> キコリのKさん(○樹さん) 最終的に右壁を登ろうと決めた時、客観条件は何でしたか? ガバなら、僕も行きますが・・・(^~^;; > トラさん、キコリのKさん 凹凸でわけると どちらのタイプですか? 凸タイプ・・・カンテ状、スラブ状が好きなタイプ 凹タイプ・・・ルンゼ状、チンネ状が好きなタイプ
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tabi-syashin at 2014-10-20 15:14
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Mt_rokuyon at 2014-10-20 19:37
tabi-syashinさん
○木です。まだまだ初心者の私にはいつも沢登りはきびいものです。ヌルミ沢もなんでこんなところに来てしまったんだろうと思いながら登っていました。。。本当に無事で帰れるんだろうかと緊張しながら登っていました(汗 ただ、山頂に着いた時の達成感と安堵感、さらに今回は快晴無うの好条件で絶景が出迎えてくれたので全てが救われました。 それでも、メンバーに助けられた面が多く私がいなかったらもっと早く到着していたんだろうなぁとも思い、迷惑をかけてしまったとのではないかと反省に近い感覚もありました。
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tabi-syashin at 2014-10-20 21:30
ですよね。最高な達成感と安堵感でしたでしょ!背中が語ってました。
沢は一本一本表情が違うので 同じ沢でも難易度は変わりますが その度ごとに 技術は磨かれ ともなって心も強くなっていきます。 ココにも顔を出して 沢ごとに心情の吐露 お願いしますね!
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キコリのK
at 2014-10-20 22:25
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tabi-syashinさん
右壁を選んだのは自分の感覚ではいちばん容易に登れそうだったからです。大滝直登は一段目は容易そうでしたが二段目で行き詰まりそうに見えました。水流左は下部は容易そうでしたが上部でいやらしい草付のトラバースを強いられに見えそれもイヤだなと。右壁は見た目は滑りそうですがフリクションもあり比較的ホールドもありました。左側に寄り過ぎてしまうと登山道に出てしまうのでは、なんて気持ちもあったのですが・・・。 凸凹で言えば凸の方ですかねえ。露出感が好きなので。
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tabi-syashin at 2014-10-20 22:38
すみません 他愛のない質問で・・・ そうでしたか凸派ですね。
私と同じですね 凹角より凸角好きでカンテルートが好きでした。 右はホールド多そうに見えたんで ガイケイ以外なら行くだろうと思ってました。 行った後で最適ルート選ぶタイプ! トップ引く人って 先ず、行きますよね。 左が登山道と思えば どんどんルートは左寄りになるのに 敢えて右ですから、、、 トラさんも ここで?登山道に出るとは思っていないタイミングだったんでしょうね(笑)
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torasan-819 at 2014-10-21 06:36
tabi-syashinさん
凹タイプがルンゼ状、ルンネ状が好きなタイプとすれば、ワタクシは凹でしょうね。 といっても「好き」とまでは言えないのです。 凹より凸の方が苦手と言った方が正しいのです。 体を空中に露出させるのが苦手というか恐いというか、つまり全然クライマー的ではないのです。 日頃から「スラブは嫌いだ」と公言してます(^◇^;) じゃあなぜスラブのある沢に登る?となりますが、自分の関心の中心は渓であり滝なので、その結果としてのスラブやカンテ、リッジなんですね。 そこを補ってくれるパートナーがキコリのKさんこと○樹さんなのでして、彼がいないと成立しない山行がこのところ増えてきています。 ヌルミ沢は1250m辺りで登山道に出るイメージでしたので、○樹さんが右壁を選んだときに背筋を冷たい汗が(笑)
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tabi-syashin at 2014-10-21 08:29
なるほど・・・分けてみれば 凹タイプですね 了解です。
ウマが合うパーティですね 凸凹両方揃ってるわけですから どちらかがダメでも どちらかがスリ抜けてゆくパーティです。 スラブは楽しいし らくちん。上部落石に注意さえすれば・・・OK。 御神楽なんかは 前も横も上も下も スラブだらけです。 それにしても ドンピシャで山頂ですか・・・たいしたもんです。
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torasan-819 at 2014-10-21 20:00
tabi-syashinさん
そう言われれば人間もまさに凸と凹ですね。 ○樹さんとワタクシでは滝を登るラインが見事に違うのです。 絶対的に登れるのはもちろん○樹さんですが、○樹さんが避けたラインをワタクシがサクッと登れたりすることも(たまに)あり面白いのです。 御神楽は今月考えていたのですが、しばらく諸行事がありもう日程が取れそうにありません。
ヌルミ沢の記録を拝見しました。
自分は4回訪れて何れも目指すピークは外してしまいましたがルーファイは見事でしたね。 祝瓶山周辺には6本の沢がありますが、カナメ沢以外は日帰りで楽しめる朝日連峰では貴重なエリア。もっと訪れる人がいても良いと思うのですが。 ただ、最難関のカクナラ沢と美しい金目沢を登りそこねてしまったなが残念です。
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torasan-819 at 2014-10-22 07:08
sakanoさん
コメントありがとうございます。 また、sakanoさんの記録は、沢登りと山スキーで随分と参考にさせて頂いており感謝しています。 私が祝瓶の沢を訪れるようになったのは、もちろんsakanoさんの記録がきっかけでした。 最近も角楢沢以外はほとんど遡行者がいないようで、特に東面の沢を遡行する人が少ないのは、上部の詰めが少々難しいからでしょうか。 カクナラ沢と金目沢はできればと思っていますが、私も年齢を意識しないわけにはいかないようになりました。 来年機会をうかがってみようと思っています。
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torasan-819 at 2014-10-22 19:34
NONさん
行きたいところに行ってるだけですよ(^_-)-☆ ただしそのためには、調査と計画、山行時間確保、体力維持などなど、様々なことをクリアーする必要がありますね。 もう少しで沢登りシーズンが終わるかと思うと、逆にホッとしている自分がいます(笑) まてよ…山スキーシーズンが始まるぢゃあないですか!(@_@;) |
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