2020年 06月 21日
![]() 自分が所属している山岳遭難対策協議会(遭対協)の守備範囲は、蔵王においては南蔵王から中央蔵王にかけてである。その遭対協では毎年夏山訓練を行っているのだが、今年は6月21日に実施することになっていた。訓練といっても特別なことではなく、山の経験に乏しい地元警察署員の登山も兼ねた各登山ルートの状況確認に簡易整備が主であり、場合によっては搬送訓練などを行う程度である。県や支部によっては抱える山域に合わせ、本格的な救助訓練を行うところもあるようだ。今年の訓練では通常訓練に加え、実際の捜索を組み込んで行うこととなった。 山域山名 蔵王・八方沢源頭 山行期間 2020年6月21日(日) 山行形態 沢登り(捜索活動) 天候 晴れのち曇り 参加者 10人(遭対協6人・地元警察4人)※捜索班のみの人数 行程 駐車場8:50~熊野岳避難小屋9:30~追分10:16~B沢入渓10:51~1,550m二俣12:17~登山道13:21-13:28~1,550m二俣13:52~ 登山道14:30~熊野岳避難小屋14:40~駐車場15:15 行動時間 6時間25分 移動距離 11.0kⅿ 標高 最低点1,435m 最高点1,835m 装備 ロープ 30ⅿ(各班所持) 捜索するのは今年2月2日に遭難したと考えられる横浜市在住の30代男性(外国籍)である。蔵王ロープウェイの山頂駅から御釜を見る目的で単独で向かったという。熊野岳避難小屋で他の登山者が特徴が似ている男性を見たとの情報があるが、その後の足取りは不明である。山頂駅で待っていた奥さんが届け出たのだが、その当時の捜索では発見には至らず行方不明のままとなっている。遭難者の装備など詳しいことは不明だが、服装はスキーウエアにゴーグルをしていたらしい。いずれにしても本格的に冬山に入るような装備ではなかったのだろう。厳冬期であってもロープウェイは冬山の入り口まで運んでくれる。そこから先は自己責任となるのだが、天候が良ければ軽装でも御釜の往復は可能であろう。ただし、それは「たまたま」条件が良かった場合のことであり、ひとたび天候が悪化すれば、十分な装備を持っていない者は深刻な状況に陥ってしまう。そのような状況に置かれた者が無事生還できるとすれば、避難小屋に入るか運に頼るしかないであろう。今回の捜索では、熊野岳避難小屋から戻る途中で風雪のためルートを見失い、ルート東側の雪原に迷い込んだのだろうと想定している。山頂駅と熊野岳避難小屋間は、風と地形の関係でどうしても東側に引っ張られやすい。ルート東側は比較的なだらかな斜面だが、幾筋もの沢筋があり八方沢の源頭部になっている。今回はそれらの沢を3班で捜索することにしている。遭対協からは沢登りのできる会員を募り、警察署からは体力のある若者が選ばれた(ように思う)。 朝から駐車場の車が多い ![]() 馬の背を熊野岳に向かう ![]() 御釜 ![]() 八方沢源頭(左に登山道) ![]() 北蔵王縦走路へ ![]() 追分を左へ ![]() コバイケイソウが多い道 ![]() レストハウスの駐車場で準備をして出発する。県境を越えた移動の自粛が解かれた週末とあって、朝にもかかわらず登山者や観光客でにぎわっている。サンダル履きの観光客も行き来するなか、総勢10名の我々はちょっと物々しい雰囲気の一団である。馬の背から熊野岳避難小屋まで登ると今日の捜索範囲が一望できる。はたしてこの見える範囲に遭難者はいるのであろうか。ロープウェイ山頂駅へと向かう登山道とは別方向の北蔵王縦走路へ進む。熊野岳避難小屋までは見かけた観光客も北蔵王縦走路に入るといなくなり、一般登山者も時々すれ違う程度とかなり少なくなる。やがて分岐の追分から縦走路を離れて蔵王ダムへと降りていく道に入る。こちらはほとんど登山者もない。 今回は仮に南からA沢、B沢、C沢、D沢とする。これらの沢はすべて八方沢へと流れ集まる。熊野岳避難小屋に一番近いA沢については可能性が低いということで、B・C・Dの3本の沢を遡行することにしている。登山道は各沢を横断していくので、A沢を渡り次のB沢で最初の班が入渓する。B沢の班は遭対協からTさんとOさんに私の3人と、警察からはTさんとKさんの20代の若者2名。人数が多いのは途中でさらに班を2つに分けるからである。警察の2人は沢登りなどまったくの初めて。山登りすらほとんどしたことがないようで、今日の足元もローカットのトレッキングシューズ。彼ら2人を無事帰すのも我々の任務ということだ。なお、自分は2014年に八方沢を遡行し、このB沢の登山道渡渉点の下流にある滝までは来たことがある。 B沢の入渓点 ![]() 最初の小滝(2m弱) ![]() 水量は少なめ ![]() 6m滝 ![]() 右岸を高巻く ![]() 1,490m二俣で2人と3人に分かれる ![]() 徐々に沢に慣れてきたKさん ![]() 小滝(2m) ![]() 1,510m二俣の右沢は美しいナメ滝(高さ約20m) ![]() ヒナザクラ ![]() 4m滝 ![]() 1,550m二俣は左へ ![]() 1,570mで雪渓が現れる ![]() 初めて雪渓を歩くKさん ![]() 1,680mで雪渓が消える ![]() 1,730mで別々になる ![]() 登山道が近い ![]() 登山道に出る ![]() 遡行を開始してすぐ小滝が現れる。滝下の崩れた岩で段差は2m弱だが少しハング気味。最初に自分が登って後続にシュリンゲを出す。水量が少ない小沢なので遡行はしやすい。やがて6m滝が現れるが直瀑で登れないので右岸から小さく巻く。笹や灌木など掴むものは豊富とはいえ、滝を巻くなど初めての経験であろう若者も何とか登ってきた。やがて二俣になり左沢に自分とKさん、右沢に3人と別れた。落差50mほどの緩やかなナメ滝が現れ、雰囲気がいいので昼食とした。聞くとKさんは20代前半で父親は私よりずっと若いこと、球技やら格闘技やら様々なスポーツをやってきたことなど、いろいろな話ができて楽しい休憩となった。遡行を再開するとまた2俣になったが、右沢は地形図によると上流で他の3人が遡行している沢と合流するので、我々は左沢へ入ることにした。少しヤブが被るようになってきたと思うと雪が現れた。Kさんにはスリップに注意するよう声をかける。その後も雪渓は続くが、あちこちで穴が開き薄いところは踏んだとたん崩れるなど気を遣う。他の班とアマ無線で交信して状況を確認する。やがて水も枯れると登山道が見えてくる。ほぼ最後まで沢筋を詰め上げて登山道に到着。最初に入渓したこともあり我々2人が登山道一番乗りだった。Kさんも頑張ってくれた。我々は遭難者の何の手掛かりも発見できなかったが他班の結果を待つとしよう。 残った部分を捜索に下る ![]() 1,550m二俣を今度は右へ ![]() 付き合ってくれたTさん ![]() 県警ヘリも飛来 ![]() この辺は雪渓というより雪田 ![]() 皆と合流し下山 ![]() 五色岳(御釜) ※クリック拡大 ![]() 登山道脇のミヤマオダマキ ![]() やがて我が班の他の3人が下に見えてきた。Kさんには登山道に居てもらうことにして、A沢で残っていた部分の捜索をするため3人の方へ下降した。Tさんも一緒になって1,550mの二俣まで下降しUターンして再び登山道まで登り返した。ここでも何も発見できなかった。県警のヘリコプターが飛んできて何度も上空を往復する。航空隊も訓練に参加ということだろう。雪渓を登っているときに頭上に来たのでヘルメットを振った。空からは丸見えだ。アマ無線で交信すると既に他班も捜索を終えて熊野岳避難小屋に移動したという。登山者の行きかう道を登って皆と合流した。残念ながら他班も何も発見できなかったこと、D沢の詰めはかなりの密ヤブだったことなどを聞いた。駐車場に戻ることにしたが相変わらず人が行きかっている。天気が良かったことだけではあるまい。これまでの自粛の反動もあることは間違いないだろう。賽の河原駐車場に移動して通常訓練の人たちと合流。訓練の修了式を行い解散となった。 GPSトラック ![]()
by torasan-819
| 2020-06-21 20:51
| 沢登り
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Comments(2)
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鍵コメントさん
ホント捜索は難しいですね。 遭難者は思わぬところまで行ってしまうことがありますよね。 今回も捜したとはいっても線でしか捜せてませんし。 何とか帰してあげたかったんですが力たらずでした。 装備の重要性もありますが、それ以前に自然に対する謙虚な気持ちが薄れているのではないかと思います。
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