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2015年 02月 19日
読書「それでも わたしは山に登る」
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田部井淳子さんの著作をまともに読むのは、実はこの本が初めてとなる。雑誌のエッセイを読んだり、テレビで話しているのを聞いたことはあるが、記憶にある限りでは著作を読んだことはない。だから田部井さんについての理解も、福島県出身で世界初の女性エベレスト登頂者ということくらいであり、テレビでの印象から気さくなおばちゃん登山家という程度の認識でしかなかった。そういえば、宮城県山岳連盟の記念行事で南蔵王の縦走があったとき、不忘山頂で一度だけ顔を見たことはあったかな。いずれにしてもその程度なのだ。

「それでも わたしは山に登る」は一昨年発刊された本で、図書館で見かけて何のきなしに借りてきた。思ったよりもというと大変失礼になるが、正直なところ読んで良かったと思えた本だった。まず文体が軽妙で気負いが無く、とても読みやすい。野山の花を語るような調子で、エベレストやアンナプルナのことを語る。極めて普通の日常的なことも、極限の環境での出来事も、田部井さんにとってはあたかも同じレベルのことのように思えてしまう。きっとこの方の人柄から来るのだろう。ごく普通でいながら静かにして熱い思いがあり、何より辛抱強く根気強くて忍耐強い。そんなところに、田部井さんの出自である東北の地域性を見てしまうのだが考えすぎだろうか。

本書では海外登山から地元のちょっとした山までの、幅広いエッセイ集となっている。前半では主に海外登山隊での出来事で、華々しい成果の陰に隠れてしまうような、ともすれば隠しておきたくなるような極めて人間臭いイザコザや悶着もエピソードとして書かれている。結局は収まるべきところに収めていくのだが、ぶち壊しにせず隊をまとめていく様子には感心してしまう。後半は東日本大震災での支援、そしてガンが見つかって余命3ヶ月と言われてからのことが描かれている。手術し抗ガン剤での治療をしながら、被災地支援のイベントや取材などに病院から直行することもありながら、淡々とその時自分に出来ることを重ねていく様は、読んでいてあっけにとられてしまう。あまりにもの淡々さに、自分は熱いものがこみ上げてきた。田部井さんはまさに「それでもわたしは山に登る」なのだ。単にポジティブという範囲を超えた、なんというのか今を受け入れつつも前に進むと言ったらいいのか。

田部井さんは人間的な魅力ある方であり、柔軟な思考の持ち主なのだろう。でなければ周囲の協力を取り付け、女子隊をまとめ率い、数々の海外高所登山を成功できはしまい。また、知名度があるとはいえ、被災地支援の輪にこれほど多くの協力者が現れることも無かっただろうと思う。周りを巻き込む力があるのだ。田部井さんは登山だけでなく、人生を軽やかに歩いていく人なんだなあとつくづく思う。とらわれることなく自由である。いやいや彼女だって人間であり、とらわれ縛られることもあるだろう。それでもまるで稜線を吹き渡る風のようだ。でも一番ぴったりな表現は「おばちゃん登山家」。いつまでもそうあって欲しいと思う。

=巻末の文章から=
力尽きるまで自分のペースで楽しく突き進む。
これが私のやり方だ。
生きていることはやっぱり楽しい。
歩くことが生きることだ。
目の前にある今を精一杯過ごすことが、わたしの歴史になってゆくのだと思う。

by torasan-819 | 2015-02-19 20:09 | | Comments(2)